【vol.01】 「黒羊は夢に哭く」 制作者対談
こちらは、2016年10月に公開したHCP共同制作作品「黒羊は夢に哭く」について、作品公開が済んだ2016年11月某日に制作者(遊木秋勇、須々木正、米原のぞみ)が対談したものです。
右の動画は対談のノーカット版、下の文字は多少分かりやすく編集を加えたものです。
ノーカット版はそのままアップすることを想定していなかったこともあり、聞き取りにくいところもありますが、制作陣の雰囲気は伝わりやすいと思います。
なお、遠慮なくネタバレがあるので、まだプレイしていない方はご注意ください。
① HCPにおける、この作品の立ち位置について。
遊木 「ヒビカ・シティー・プロジェクト」(以下、HCP)において、今回の作品「黒羊は夢に哭く」の立ち位置は、いったいどういうものなのか、という話から。まず、HCPには個別制作と共同制作というものがあるけれど、それぞれちょっと制作スタイルが違うよーっていうのが……ブログとかでも結構書いているんだけどね。
須々木 うん、まあ何度となくね。いろいろ言っているやつね。
遊木 何度となく結構書いているんだけど、今回の「黒羊は夢に哭く」は、共同制作の第一弾の作品として発表しました。えー、なんだ……この共同制作ね、どのような位置にある作品かっていう説明は、どうしたら分かりやすいですか、これは?(←丸投げ)
須々木 うん、なんだろうねー。なんか良いたとえがあるといいね。
米原 自分の作品に対して、どの部分に当たるかっていうのを、それぞれ言っていけばいい感じかな?(←よく分かっていない)
遊木 うーん……。
須々木 ま、概念的な、コンセプト的な。
遊木 何を言ったら分かりやすいのかという。
須々木 そもそもこのプロジェクトって、世界観がベースにあって、世界観自体は、RWのメンバーみんなで相当詰めていったわけだよね?
【編注】HCPは、プロジェクトスタート時に、メンバーみんなでヒビカという世界の設定をかなり綿密に詰めています。始動後は、その時点で確定している設定と矛盾のない範囲で設定の追加が可能ですが、メンバー間での相互チェック(承諾)が求められる仕組みになっています。
遊木 うん。
米原 相当話し合いましたね。
須々木 でまあ、その土台の上に、今度はみんながわりと互いを気にせずつくって(最終的なチェックはみんなしていたけど)っていうスタイルだけど、「またいったん、みんな集合して、一つのものを……今度は世界観じゃなくて、ストーリーつきのものをやってみようよ」みたいな雰囲気かな。
遊木 うーん、まあ、そうだね。個別作品、個別制作の方っていうのは、共通の世界観のもと、「共通の世界観のそのルールを守っていれば、好きなことをしていいよ」みたいな感じだけど、共同制作は、「ちょっと寄りそって、定期的に一つの作品をつくろうか」みたいなノリ。だから、このスタイルって言うのは、ぶっちゃけ、HCPに限らず、ある意味、RWの活動の分かりやすい縮図というか。
須々木 まあ、修学旅行で言うと「自由行動やってたけど、ちょっとクラス行動にしましょう」みたいなね。
米原 なるほど、分かりやすい。
遊木 ま、普段は自由行動が多いっていう感じだったけど、何か大きなところを見るときは、ちゃんとクラスで固まりましょう、みたいなニュアンスかね。って、分かりやすいのかそれ?
須々木 いや、それは聴く人の読解力の問題。(←視聴者をあおるスタイル)
遊木 この作品は、のぞみんの「夢見るバクと悪夢のディナーを」(以下、夢バク)と私の「ジレンマ喰いの笑い猫」(以下、ジレンマ猫)のクロスオーバー、つまり、それぞれメインのキャラクターが普段は交わらない話なのに今回は交わる、みたいなクロスオーバーのスタイルになっていて……。補足しておくと、「共同制作=クロスオーバー」というわけではないけれど、でもきっと、今後もクロスオーバーになっていく確率は高いなという。
【編注】対談した三名について、「代表」は遊木、「お兄」は須々木、「のぞみん」は米原のことです。
須々木 そうだね。じゃないと、何だかよく分かんないもんね。
米原 せっかく世界観は共通しているから、どうせなら絡めたいという欲もあり。
遊木 クロスオーバーさせるとき、なんで今回、媒体がビジュアルノベルだったかっていうと……今回のシナリオも、実際は、のぞみんサイドと私サイドでそれぞれ勝手に話を書くというスタイルだったんだけど。
須々木 そうだっけ?
遊木 最初はそうだったんだよ。別に、「二人でその部分だけは一つの作品をつくりましょう」じゃなくて、同じ場面を、夢バクサイドとジレンマ猫サイドのそれぞれから描くという。
須々木 あー、なるほどね。
米原 最初は、それぞれ漫画で描くつもりだったんだよね。一番最初はね。
須々木 「冷静と情熱のあいだ」的な方式。
遊木 だったんだけど、そっちのスタイルの方が難しいというか、制作するのが難しい。
須々木 かなり細かい折り合わせが必要だよね。
遊木 それなら一つの媒体として、クロスオーバー作品を一つ作っちゃおうっていう意見が出て、今回こうなったという感じですね。うーん、これはだから、共同制作と個別制作の話じゃなくて、クロスオーバーの話になってるけど……。
須々木 (共同制作と個別制作の話に戻って)僕が思うに……個別の作品をバラバラに楽しんでも、もちろん最初から時系列とか裏では整理しているわけだから、実は接点が何ヶ所か仕組んであったりして、よく見ると、人によってはそれらに気付くかもしれない。けれども、今回みたいに、改めて同じ一つの作品の中でそれを扱うことで、個別の作品を横断する要素というか、その共通の世界観が、より分かりやすくなったかなと。
遊木 あ、ホントに一つの作品だったんだ、みたいな。
須々木 そう。今まで「ちょっとずつ何か出てるっぽいけど」って思っていたのが、一つの作品の中で扱うと、「あ、ホントに一緒だったんだな」と。
米原 うんうん。
須々木 整理されて、作品群全体の輪郭を把握できてくると、個々の作品に戻っても、それをより楽しめると思うし、また新たな発見もあると思うから、そういう補助的な意味っていうのは、結構大きいんじゃないかなと。
遊木 そうね。分かりやすくしたよね。
米原 うん。
遊木 同じ特設ページ内にある作品でも、ヒビカという街の全然違う地区で織りなす物語をつくっているから、個別作品はそれぞれが全然違っている。だから、「世界観は一緒なんだろうけれど……」みたいな感覚だったのが、今回の作品をつくることによって、「あ、ホントにコイツら、同じ世界の作品をつくっていたのか」みたいな。
須々木 点と点がつながって線にやり、やがて面になっていくのかと。
遊木 そうだね。やっぱ、個別制作の方は点の部分、共同制作は線の部分で。
米原 やっと線の部分ができてっていう。
遊木 そう、やっと線の部分できたな、みたいな(笑)
米原 HCPを立ちあげたときから、みんなで世界観を共有して、それぞれでクロスオーバーさせて、それぞれのキャラを出したいね、お話でもどこか絡めていきたいねって話はしてたけど……ようやくという感じで。
遊木 長い道のりで。
須々木 つくってる側も、ようやく「あ、こういうものだったんだ」みたいなね。
米原 やっと一緒につくりたいもの、というか、一つの話をつくれる段階まで来たかなっていう感じですね。
②作品内の見所
遊木 この作品の見所はいったいどこなのかという話をしていきたいんですが……では、順番に聞いていこうかな。のぞみんは、自分的には何が見所だと思う?
米原 実際プレーした視点から言えば、個人的に、やっぱりラストが一番見所かな。っていうか、ラストから、こうエンディングにいって……最後の……なんか……ラストのシーンかな(笑)
須々木 なに、ストーリー展開? 演出とか?
米原 なんかやっぱり一番盛り上がるのと、「あ、こんなふうに演出してもらったんだ」っていうのとで、すごく感動したというか、すごく嬉しかったっていうのもあるし。
遊木 あとね、演出は私がわりと勝手に仕切っていたので、のぞみんは組み立てられるまで……。
米原 そう、テストプレイの段階になるまで、実際どうなっているかを見られていなかったので、「あ、こんなふうに形にしてもらえたんだ」っていう感動が、個人的にすごく強かったので。
須々木 ほー。
米原 ゲームとして形になっているっていうところで、もうすでに嬉しいっていうか見所というか。
遊木 それ、見所っつーか(笑)
須々木 他のところはどんどん場所移動するけど、ラストのところは場所も延々と変わらず、会話だけでほとんど持っていくっていうのは、逆に変化がついているかもしれないね。
遊木 なるほどね。最後ドキドキさせるというか、最後突き落として終わるというか。
須々木 やってる人は分からないけど、つくってる側としては、全体として尻すぼみじゃなくて、やっぱり最後は盛り上がったかなっていう感覚はあるよね。
遊木 ふんふんふん、なるほどね。……お兄は?
須々木 ラストのところはやっぱり僕も、「あ、なかなか思った以上にいい感じになったな」っていうイメージだったけど……なんだろうね、見所ね。一見するとファンタジーなことは何も起きない普通の世界のような雰囲気で全体を描いていると思うんだけど……街とかビルとか建物とか別に普通だしね。でも、キャラクターとか固有名詞とか、諸々、細かいところを見ると、明らかに現実ベースとは一線を画すというか。そういう、現実っぽいけど、現実じゃないものが混ざっているみたいな、独特の空気感というのは、全体に渡って沁み込んでいるから、そういうのは楽しんで欲しいかな。現実の、特に、日本みたいな雰囲気の世界だけど、なんだかちょっと違うなっていう、その違和感を、その違和感が何なのかっていうのはちょっと分からなくても、何となくその空気を楽しんで欲しいっていうのは思うかな。
遊木 ふんふんふん。まあ、私はですが……この作品の見所ってなんだろうって、さっきもう一回プレイし直したんだけど。一つは、クロスオーバーの部分がもちろん、こっちとしては一番プッシュしたいというか、見所って思って欲しいところだけど、それ以外で考えると、この作品って、主人公が何をするのが目的だっていうのが、ぶっちゃけ、ちょっと分かりづらい。そもそも何が謎だったのかっていうのも、ちゃんと読み込まないと分からないような。
須々木 ま、読み込んでも結構難しいけどね。
遊木 難しい内容だし、分かりやすいエンタメ、お色気とかホラーとかミステリーとか、っていうところがあるわけでもないので、ちょっと宣伝がしにくい作品だよなって、最初から思っていたんだけど……。
米原 どう売り文句をつければいいのかっていうと、「うーん」っていう。ジャンルとしては何なんだろうかっていうと……。
遊木 まあ、サスペンスなんだろうけど。だろうけど……みたいな(笑)。私が演出を考えているけど、ちゃんと最後組み立てるまでは、のぞみんが言ったみたいに、通してどういうものになるかっていうのは正直分からなかったし、音楽も自分で選んでいるくせに、ちゃんとあうのかもよく分からなかったし。組み立てたときは、最後の、ドグマ君がどんどん追い詰められていくところから、暗転してエンディングに入っていくあの流れっていうのが、なんか自分が思っていたものより結構しっくり来たな、ちゃんと作品が一区切りしたわみたいな感覚だった。投げっぱなしにして、そのまま回収せんで終わるみたいなストーリーだったけど、一応あれでなんとか最低限区切りをつけた終わりにできたっていうのは、一つ良かったかなって。
須々木 プロジェクトとして、つくってるものの時系列の最新のものをやっているわけじゃないから、さかのぼって間を埋めてるような感じだから、逆に終わらせ方って難しいんだよね。
遊木 そうなんだよね。放つのは楽なんだけど、どこで区切って、何を終わりの部分にするかっていうのが、今回も非常に悩みのところで。中途半端な所で切っちゃうと、作品としてすごく中途半端になってしまうから。ただ、その割には今回、全体が一応、最低限のまとまりを見せた内容になったかなっていうのがある。それと、単独作品として見所をプッシュするというより、サークル外部の人から見て、RWがHCPで何をしたいのか、どういうスタイルの創作活動をしたいのかっていうのを、ある意味、分かりやすく提示した作品ではあったかなって。ちょっと、最初の①と被るけど。
須々木 うん。
遊木 ていうのが、あったりね。まあ、まとまったよね!っていう。なんとなく、思いのほか(笑)
須々木 そうだね。今回、自分が企画していたわけじゃないから、全体像ってどうなるのかあって、最初は少しよく分かってなかったけど(笑)、「あ、なるほど、こうなるのかあ」って、最後、こっちもスッキリした感じがあったから。
遊木 エンディングの曲は、ゲームが完成する全然前っていうか、うちら(遊木&米原)が絵とか描きだす前に依頼はしていて、ジャズロック的な感じのをお願いしてつくってもらってたんだけど、あれは実は結構最初から「もう絶対この曲調で、この曲調のエンディングだな」って、私の中で明確なイメージがあって。で、なんか最初、お兄は「疑問……」みたいな(笑)
須々木 (笑)
米原 そうだったんだ(笑)
遊木 そう、「疑問……」みたいな(笑)
須々木 ジャズロックなのはいいと思ったけど、あがってきた曲を聴いたとき「ホントにこれ平気かな?」って、ちょっと一瞬思って……(笑)
米原 はははは(笑)
遊木 「疑問……」みたいな感じでされて。「いや、絶対平気だから!」って言って(笑)
須々木 「でも、まあいいや。なるようになれ。責任者じゃないからどうでもいいや」とか思って……。
米原 はははは(笑)
須々木 で、最後、スクリプト組んではめたら、「お、これ結構いいじゃん」と思って。
遊木 ほら、見たことかと(笑)
須々木 あ、こんなはまるものなのかと。
遊木 ドグマとシェリが、レンガの壁に、こう二人並んで立って、それを正面から見てエンドロール流して、ジャズロックの音楽流すっていうのは、もう、最初からぱっと頭の中にイメージがあって。だからなんか、イメージがあるものはちゃんと入るなって思った。
須々木 そうだね。やっぱ、イメージを明確にできるかどうか大きいよね。
遊木 っていうところがね、個人的にはね、「はまっただろ?」って。
須々木 やっぱね、企画メインでやってる人が持ってるイメージは強いよね。
米原 自分は、エンディングがどうなるかとか、全然(笑)。いや、曲は視聴させてもらってたけど、どんな感じになるのかなっていうのは、あんまりイメージがなかったから。エンディングの絵は、依頼されて、「あ、こういうのを用意すればいいのか」ってなって、それを提出して。で、あがってきた完成を見て、「あ、こうやってはまるんだ」っていうので感動したっていうのもありますね。自分の中には全然なくて。
遊木 なんかね、エンディングを変に悲劇のエンディングにしたくなかったんだよね。ストーリー的に、終わりがたぶん最悪な終わり方をすると思ってたから、そのイメージを引きずってエンディングの曲にしたくなかったんだよね。
米原 あんまり重たい曲は確かに……。
遊木 もうそこでぶつっと切って、全然雰囲気の違うのをやって、ドグマたちが昼間いた路地裏に影が映る……っていう終わりのイメージが最初からあった。あれは終わり方がはまったなって思った。
米原 うん、すごく良かった。
須々木 最後の演出の仕方は、どうしようかって言ってたもんね。
遊木 ま、最後のピカピカピカ、チカっていうのは、お兄がそのあとプラスしてくれたアイデアだけど、“影の二人”が曲のあとに出るっていうのはイメージがあったから。ドグマ君の絶望からエンディング曲が入って、最後、“影の二人”が出るっていうあの流れは最初からイメージに持っていたから、イメージを持ってるものは、わりかしちゃんと最後はまるんだなって思って。
須々木 うん。
遊木 みたいな。見所の話じゃない話になってるけど(笑)
米原 ま、制作過程の話もちょっと混じりつつ……。
遊木 ちょっと入ってるけど。ま、でも、グラフィックも、ノンリレのときと比べて、だいぶ個々のスキルが上がったかなって……思うよね?(笑)
【編注】「ノンリレ」とは、RWがはじめて制作したノベルゲーム作品「ノンノ・リレイショー ~人形の巡る街~」のこと。「黒羊は夢に哭く」の3人は、いずれもノンリレで主要制作スタッフだった。そして、その時点で全員がはじめてのノベルゲーム制作だった。
米原 そうだ、前回がすごかったから(笑)
須々木 ようは、力の加減が徐々にね。
遊木 うん。ま、力の加減……それぞれ、3Dを初っ端から投入できるようになったりとか。ノンリレの制作を始めたときって、そもそも私、デジタルで線画を描いたことがなかったの。
米原 みんなまだ、デジタルに移行した直後くらいで、どんなソフト使うかみたいなところも模索してた段階だったからね。
遊木 私は、フォトショで何となく色をつけるみたいな。スキャナで取り込んだ線画に何となく色をつけるのができるようになったくらだったんだよ、あのときは。まだ、SAIも入れてなくて。
米原 うちも、パソコンにSAIを入れて、やっといじりだしたくらいの頃だった気がするな。
遊木 私も、途中でSAIを入れたんだよね。だったから、そのときと比べて非常に……Speedyに!
須々木 そうだね。経験値って重要だね。
遊木 うん。Speedyにある程度見れるものをつくれるようになったよね(笑)
米原 前回が嘘のような感じで、すごく段取りが良かった感じが。
遊木 今回、三人でやったけど、ホントに三ヶ月くらいでできたからね。
須々木 いやー、ノウハウ重要だね。
米原 前回の経験がいきてて嬉しいなっていうのがありますね。
遊木 そういうのが実際、グラフィックとか、表の面にも出てきたなっていうイメージはあったよね、うん。見所なのかちょっと分かんないけど(笑)
米原 でも、背景のことはみんなで話し合ったし、それぞれのイメージしてた建物のデザインを交換しあったり、意見交わしあったり、3D用意してもらったりってしてたので、個人的には見て欲しいという意味では見所ですかね、背景は。
遊木 まあ、そうね。もともとヒビカっていう共通の世界観があって、それを今回ビジュアルノベルって媒体にしてるから、ストーリーだけじゃなくて、背景とか、たぶん見逃してしまうような絵の細かい部分みたいなのも、その世界観の一つ一つで、要するに、絵が今後の伏線になってるようなのが多いから……まあね、絵も大切だよね。
須々木 そうだね。何気ない感じでも、その……地形から検証すると、この角度は、とか(笑)
遊木 ドグマ君が危ないお薬をもらった川べりのところの、あの川とかのカーブの仕方とか、遠くにある橋とかも全部設定があって、この角度から見るとどうやって見えるっていうのも全部計算して……。
須々木 3D上で地形立ちあげて……。
米原 あははは、規模が(笑)
須々木 この角度だと、当初の狙ってた形にならないよって、逆に差し返しもして。
遊木 遠くの方にビルがあるけど、どのくらいの大きさで見えるのかとか、川幅いくつだとかっていう設定が実際にあるから、グラフィックも世界観の仕掛けにはなってるよね。
須々木 最低限、致命的な矛盾が残らないようなね、配慮をね。
遊木 実はしてるんだよね。
須々木 実はね。
米原 実は頑張ってたっていうね。
遊木 そうそうそう。「いや、橋、見えねえよ」みたいなのとか。「あ、じゃあ、橋の見える角度は?」みたいな。そういうのとかいろいろやってたんだよね。
③制作過程について
遊木 じゃ、同じようなノリで、「制作過程について」。さっきも言ったけどさ、今回、ガチ三人じゃん? エンディングをつくってくれたy@shaをサブメインとして考えても、基本三人でつくったけど、実際に文字を書き出したところから公開まで、ホントに3ヶ月きっかりくらいなのね(途中、漫画に集中していた8月途中から9月の一ヶ月はストップしていたので、その前後の3ヶ月)。そのわりに、わたし的には結構無理なくつくれたというか、ノンリレのときみたいに48時間耐久(笑)みたいなことをやらなくてもつくれたから。しかも、同時進行で漫画もつくってたから。結構、スムーズに良い連携をとれてつくれたなっていう、制作に対する手ごたえを感じたんだけど、どうですかね、みなさんは。どうだった、のぞみん?
米原 さっきもすでに話しちゃったけど、連携がすごいスムーズにとれったっていうか、連携の流れがノンリレのときに掴めていたっていうのは、かなり大きかったなあと思うところですかねー。あとなんか言おうと思ってたんだけどなんだったかな……。
須々木 (笑) まあ、思い出したら言っていいよ。
米原 うん、思い出したらまた突っ込みますんで。
遊木 どうだった、お兄は?
須々木 そうだね……前にノベルゲームをつくったとき、自分が企画者で、シナリオから設定から全部自分でつくってたけど、今回、他の人の原案を文字に書き起こすっていう工程がはじめてで、かなり新鮮だったなあっていうのがあるかな。原案をつくる時点で完全に無関係だったわけではないし、十分に話し合い重ねていたから大きな苦労があったわけではないけれど、制作のスピード感という意味で、「このやり方は、結構可能性を感じるな」という感触を得たかな。ただ、こういうやり方は、普段からかなり綿密にコミュニケーションをとっているから成り立つのかもしれないけどね。
遊木 ふんふんふん。ま、掲示板上のやり取りだけだったら、ちょっと足りないかな……。
須々木 たぶんスピードがもうちょっと遅くなったよね。
遊木 うん。ま、直接伝えられる機会があんまないとね。
須々木 掲示板上でやり取りして、できそうなところをやりつつも、徐々にそれで解消できないのがたまってくると、会ったときに一気に潰していったって感じだったけど、このやり方はうまい具合にはまったんじゃないかなと。
米原 やっぱり実際会って話した方が、むしろ時間の短縮になるというか。
須々木 圧倒的に速いし、気分もすっきりして、モヤモヤしないで取り組めるんだよね。
米原 確かに。
遊木 ノンリレでは、最後の方で、お兄から全部聞き取りして、クロッキー帳に作画指示をまとめて作画指示冊子をつくるみたいなことをしたけど(編注:ノンリレの企画&シナリオ&世界観設定をした須々木は絵が描けないのである!)、今回、ヒビカっていうのは、みんなで共有している世界観だったし、「黒羊は夢に哭く」は自分が主導だったから、「こういう環境で、ドグマはどういう表情してて、こういうところにいるよ」みたいな指示表(ブログも参照)を、最初からバンバン出してたんだけど、あれは……あれはどうなの? ああいうのがあった方が楽で良いのか、それとも、自分で考える楽しみがなくなっちゃって、ちょっと物足りないのか、とか。どうなんだろうね、ああいうのは?
米原 いやー、ノベルゲームという媒体に関して言えば、指示表があった方が、個人的には全然スムーズだし、やりやすかったし、特に、やりにくさというか、楽しさがないってことはなかったかな。むしろ、それはそれで楽しい。
遊木 自分でちょっと考えたい人って……結構カッチリした指示だったじゃん?
米原 でも、そもそも、HCPを立ち上げて、設定を考えて、話し合っている時点で、すでにイメージができていたから、特に、「それぞれのイメージのズレが」とか「ここ、もうちょっと話し合わなきゃ」っていうところは、さすがになかったし、自分で全部の原作を考えていれば、自分のイメージとあわないっていうことが起きるかもしれなかったけど、このHCPの作業に関しては、そういうのはなかったですね。
須々木 ゼロからつくられたものをポンと渡すタイプじゃないからね。行ったり来たりしながら、形を片方で整えて、整えたのを渡すみたいなやつだから、完全に人のものっていう雰囲気でもないしね。
遊木 ま、キャラクターは、自分ちの子だしね。
米原 うん。
遊木 棒人間だけ渡して、「これにドグマ君を乗せてくれ」みたいな感じで。
米原 あれだけでもだいぶイメージが伝わってきたからありがたい感じですね。マネキンとかでも。
遊木 いやー、指示出す人間は絵描きたいな。
須々木 それはね、当然だね。(←絵描けない人)
遊木 いい加減にせい(笑) いや、まあ……なんか、ちゃんとした絵が描けなくても、イメージを制作スタッフに伝える能力は欲しいよね。
須々木 欲しいよ、そりゃ(笑)
遊木 思ったよね? つくづく思ったよね?
須々木 いや、前々から思ってます。
遊木 今回は、こっちで結構カッチリやって、「ここにこういう絵をつくってね」っていうのに対して、突っかかる人がいなかったから、非常にナチュラルにスムーズに進んだよね。
米原 なんか、むしろ、ここまでスムーズに行くとは思ってなかった。
遊木 思ってなかったよね?
須々木 前よりはスムーズに行くと思ってたけど……。
米原 もうちょっと、ちょいちょいつまずいてくかなって……。
遊木 私、正直、年内に発表できれば儲けもんだと思うくらいでつくってたのよ。
須々木 ほー。
遊木 普段から私、ノベルゲームやらないから、どうなるかちょっと分からなかったし。でも、ホント引っ掛かりなくスムーズにできたね、自分的には。
須々木 うん。
遊木 最後の方で、のぞみんがモブを大量に描くときがあったじゃん、カブラのサイン会のところで。私、あのときね、のぞみんが出してきた前日くらいに夢に見たんだけどね、のぞみんがすげぇクオリティーの高いモブを描いてきて「こんなに頑張んなくていいんだよ!(泣)」っていうのを、のぞみんに伝える夢を見たんだ。
米原 はははは(笑) いやまあ、実際、ノンリレのときはそうだった。
須々木 一種のトラウマ(笑)
遊木 「のぞみん、モブこんだけ頑張って描いても、こんなに小っちゃくなっちゃうんだよ」って、ノンリレのときのトラウマがあって……。
米原 いやでも、実際に形にならないと、いまいち言われてもピンと来てないところはあったんだよ、ノンリレのときは。
遊木 「ホントに小っちゃくなっちゃうんだよ」って言ってるのに、すげぇクオリティーでモブをあげてくるのぞみんに対する、なにかこう、己の中のトラウマがあったんだろうな。
米原 (笑)
遊木 ……っていう夢を見たっていうのをお伝えしたらね、結構笑われました。
須々木 いやー、面白いね。
米原 うん。そんなことがあったとは(笑)
遊木 そうそう。私、夏休みに宿題忘れる夢を見るタイプの人だから。
米原 私もわりと、遠足の前に遅刻する夢見る(笑)
遊木 ……っていうのがいろいろあったけど、モブってさ、どうなの? 描いてて辛くないの?
米原 いや、でも、今回はノンリレのやつがあったから、マネキンはほぼ全部揃っていたし、角度と向きのレパートリーは、過去に描いたやつにいろいろあったから、それを見つつ参考にしつつってしてたら、今回はそんなことはなかったですね。むしろ、色塗るときの方が大変かなというか。むしろ、私の描くモブって、カラフルすぎるかなっていうのを思って。もっと、くすんでて良いかなって(笑)。でも、あんまり色褪せちゃうと、今回、シェリがわりとカラフルな、ちょっと奇抜な格好をしているので、さらに浮き過ぎるっていうのも、ちょっとあれかなあと思って。
遊木 ドグマ君の真っ黒は逆に際立つから、良いんじゃないかな。今回は別にシェリじゃなくて、ドグマ君がメインの話だから、ドグマ君のあのモノクロが世界に沈んでる、周りはキラキラしてるのに、一人だけ沈んでしまっているっていうイメージには、沿ってるかなって思うけどね。どう、辛くないの? あれ、制作してて辛くないの? 私、あの数のモブをつくれって言われたら、たぶん精神的に病むと思うんだけど(笑)
米原 いや、でも、なんとなく……なんか、描きだす前に、「これはたぶん辛いだろうな」っていうのは予測はできるから、何も考えないようにするっていうのが一番あれかなっていう。
須々木 まあでも、モブってやっぱ説得力があるんだよね、世界観を見せるときはね。
遊木 そうなんだよね。
米原 大丈夫だった? 毎回描いてて思うんだけど、服がシンプル過ぎるかなっていうのとか、やっぱメインのキャラクターは目立たせなきゃいけないから、ちょっと個性的な格好をしたり色づかいしたりとかしてるけど、モブが普通すぎると……。
遊木 程良く良いバランスだよ。
米原 ああ、良かった良かった。
遊木 ていうか、色調とかはぶっちゃけね、合成するときに勝手にこっちで変えるから。
米原 ああ、そうだね。バランスが良い感じに、彩度ちょっと調節しつつ、影入れてもらいつつってふうにしてもらってたので。
遊木 あれは、もらったあとに、空間に合わせて、私が影を乗算とかで入れたけど、基本的に、数がいればね、溶け込めるのよ。
米原 確かに、あとから加工でなんとかなるっていうのは、わりと心が軽かったから。そのへんは全部投げて、合成してくれる代表に投げて、ただひたすら完成させればいいかなぐらいの。
遊木 いや、ホント、私、あの人数のモブ描けないよ、精神的に(笑)
米原 あと、ノンリレのときよりは角度が単純だったから、それがありがたかったなっていう。
遊木 あー、なるほどね。変に、俯瞰とかアオリとかではなかったからね。
米原 それは凄くありがたかったなっていう。
遊木 そういうのがあると、まず、マネキンが面倒くさいな。マネキンつくるところからがね……。
米原 マネキンをひねり出すのが一番苦痛だから、今回それがほとんどなかったので、すごく助かりました。
遊木 今回は、変にアクロバティックなカメラワークがなかったから、そういう意味では、作画は全体的に楽だったかもね。
米原 あ、あと、大変だったところで思い出した。さっき忘れてたって言ってたところなんだけど。②で少し触れたけど、最初ノベルゲームにする前は、各自で別々の媒体で描く予定だったんだけど、私はカブラの視点で描くつもりだったから、急にドグマが出てきたときに、だいぶ先送りにしてたドグマの設定を詰める必要があったというのは、「あ、しまった!」と思って、急いでやったところではありますかね。
遊木 あー、設定ねー。
米原 ドグマのネタは、トリの方に持ってこようかな、ネタばらしを一気にしようかなって思ってたんだけど……。
須々木 我々の内部では共有しなきゃいけなかったからね。中身は詳しく触れられないけど。
米原 それを急遽、ちゃんと詰める必要がでてきたっていうのは、ちょっと焦ったけど……。
遊木 家の間取りとか急に描かせたりしたもんね。一室しか使わねーのに。
米原 「おっと!」っていう。
遊木 一室、ワン角度しか使わないのに。
米原 いやでも実際、今のうちに詰めといて良かったかなって。まだ、他の漫画を描いているところなんですけど、今の段階でドグマっていうキャラの設定を小出しにできたことで、読者の興味が、ドグマの方に向けてもらえると嬉しいなっていうのは思いましたね。結果的に良かったかなという。
遊木 ドグマはたぶん、夢バクサイドから見ても、キャッチーなキャラっていうか、興味を引きやすいキャラクターでは絶対あるから。
須々木 作品を特徴づけるよね。
米原 ドグマに触れる話がいつ頃描けるのかっていのは、ちょっと自分でも分かってなくて、「だいぶ先になるだろう」ぐらいの感じしかなかったんですけど、ここでちょっと小出しにできて良かったかなって思いました。
遊木 両方見ている人からしたら、夢バクドグマと黒羊ドグマのこの差はなんなんだっていうところは、やっぱ大きな興味だと思うから。
米原 あの間にも何かちょっとあったよっていうのは、匂わせられたかなっていう。
遊木 黒羊の方が時系列的には前で、二ヶ月後くらい?……が夢バクになるんだけど、「その二ヶ月の間に、彼に何があったんだ?」っていうのが、今後の見せ所だよね。
米原 まあ、若干ハードルは上がった感はあるかもしれないけど(笑)
遊木 期待感をあおるという。
米原 でも、作品には大事ですよね、期待感をあおるの。
遊木 なるほどね、設定の部分ね。確かにそうだね。
米原 視点が変わったのと、設定を詰めるってことになったのと、あと、私もノベルゲームのシナリオっていうのを書いたことがなかったので、まず、「ドグマ視点の話だから、ドグマの台詞を書いてくれ」って言われたときには、すれる前のドグマの設定もちょっと詰めなきゃなとは思って、ワタワタしてたときがありましたね。
遊木 シェリが語り手の場面が2セクションあって、私が執筆してるけど、あそこって、モノローグっていうか、シェリが語ってるじゃん。でも、シェリって、ジレンマ猫の本編だとモノローグを使わない方針だから、いっぱいペラペラ喋らせるわけにもいかずっていうのが大変だったよね。
須々木 ま、演出上いろいろ工夫をしながらね。
遊木 だから、本来はこんなモノローグ書いちゃいけないキャラクターなのに、書かなきゃいけなかったから、キャラクター性を崩さずにどうやって文章に起こそうかなっていうのが大変だったよね。
④全体的な制作感想
遊木 じゃあ最後、この作品を制作しての感想を聞こうかなと思いますが、制作を終えて感想とか、今後の展望とかっていうのについて聞きたいと思います。じゃあ、どうぞ、のぞみん。
米原 やっぱり全体的にスムーズにできたっていうので、あんまりストレスがなく、すごく楽しく制作ができたなっていうのは、今回思ってたところですね。このペースなら、またちょいちょい、何かしら、それはHCPではないかもしれないけど、わりと気軽に3ヶ月くらいで、簡単なゲームとかつくれるんじゃないか、みたいな期待はあるけど(笑) まあ、実際どうなるかは分からないけどね。やっぱり、短期制作の流れが掴めたっていうのは大きいと思うので、今後に活かせていけたらいいねって思いますね。次の共同制作はどうなるか分からないけど、目の前の自分の夢バクの制作を進めなきゃなっていうのは常々、思ってはいるので、それをまた小出しにしつつ、またどこか、みんなでつくれる地点というか場面があったら、またこういう感じで共同制作をやっていけたらいいなと思います。
須々木 クロスオーバーということで、今までよりも深く、他のメンバーのキャラクターを知ることができたのが、ちょっと面白かったかな。特に、人間性というか価値観というか、心情の変化とかをより明確にイメージできるようになってきたから、今後、制作サイドとしても、一人の読者としても、プロジェクトの進行が楽しみになってきました。年に一回くらいは、今回みたいなタイプの共同制作を挟みたい気はするかなあと。あと、敢えて言うなら、次回は女の子キャラを登場させたいなあと(笑)
米原 あー、確かに潤いがなかったな。
須々木 ちょっと潤いがなかったから、女の子キャラは、次回は必要だろ(笑) あとは、ゲーム単体としての魅力もさることながら、プロジェクト全体の魅力が伝わるように、これをつなげていきたいなと思いました。はい。
遊木 はい。私も結構二人と似たような感想なんだけど。とりあえず、HCPの共同制作はやっぱ年に一本くらいはつくっていきたいなって。せっかくノウハウが身に付いて、流れがついたから、それを切らしたくないっていうのが一つある。三ヶ月くらいで、このくらいのひとまとまりの作品ができるなら、別に、可能なもんだと思うから、やっていきたいなって思うし。で、私も次ゲームつくるなら、女の子欲しいね(笑) 今回、ストーリー上、野郎ばっかしか出てなくて、てんで華やかさがないストーリーで……。
須々木 やむを得なかった(笑)
米原 それぞれの物語の設定上仕方がないとは言え、潤いがなかったね。
遊木 ていうのがあるから、そうしたいなって感じですかね。まあ、またなんか、共同制作のストーリーというか、企画というかっていうのは、実は、チマチマちょっと考えているので、形になったら、みんなにどんどん発表していきたいなと思うので……。
須々木 乞うご期待だね。
遊木 乞うご期待(笑)
米原 乞うご期待。
遊木 って感じです。以上!