じきに訪れるほど近くはないけれど、空想でしか触れることが叶わないほど遠くもない、そんな未来。
歴史は、今を生きる僕達の世界からゆるやかに連続的に流れ、その世界に至る。
“どこかの知らない世界”ではない。
誰もが決して無関係ではいられない、そんな現実現在の延長としての未来の世界。
世界は相も変わらず科学を神のごとく崇めながら発展していく。
グローバリゼーションの流れは収まる気配を見せずに広がり続け、
より複雑に、より難解に絡まるようにつながり続ける。
そして、目を凝らしても容易には判別できないほど境界は曖昧になっていく。
それは国と国との境界に限ったことではない。
民族、言語、宗教、生と死、生物と無生物、秩序と混沌、リアルとバーチャル、過去と未来、キミとボク。
そんな世界を人々は思い思いに生きていく。
それは、昔の人が夢想したユートピアではないが、同じく昔の人が絶望したようなディストピアでもない。
ただの、当然の帰結としての世界がそこにはある。
ただの、偶然の悪戯としての彼らがそこにはいる―――。
“彼”はある日、仮想の街で不可解な体験をし、ストーリーは動き出す。
誰もが自由に“ダイブ”できるわけではないが、誰もが無関係ではいられない世界。
たった一つの大切な世界で間違いのないように、世界はたえずシミュレートされる。
無数の歴史が折り重なり、最適な解が導き出される。
“彼女”は、その世界の中から預言めいたセリフを口にする。
明らかに自分に向けて発せられたそのセリフに、“彼”は戸惑う。
無理もない。
なぜなら、“彼女”に“彼”を認識することはできないから―――。
さざ波しかたたない静かで暗い沼のような謎を孕んだまま、
街は異様な盛り上がりに飲み込まれていく。
人々は出逢い、笑いあい、嫌いあい、信じあいながらも、
謎は牙を隠しながら、ただただ静かにその時を待っている。
彼は思う。
「知らないことはなんでも知りたい。手段を問わず」
彼女は告げる。
「それはただの高慢。ただ自分勝手なだけだよ」
二人を眺めながら男は思考する。
己の目的が達せられる未来を。
男の横で少年は沈黙を破らない。
すべてを見通すような眼差しを投げかけながら。
来訪者は直感する。
その街に漂う違和感の存在を。
その背後の男は秘めている。
すべてのありのままを受け止める覚悟を。
そして、幼き少女は願う。
「“人形”になりたい」と―――。
物語は、間もなく動き出す。
そのときあなたは、何を思うのだろう?
